交通事故のむち打ち|後遺障害慰謝料の金額相場や認定のポイント
交通事故に遭ってむち打ちになり、後遺症が残ってしまったときは、後遺障害等級認定を受けることで、約30万円〜最大290万円の慰謝料を請求できる可能性があります。
「逸失利益」と呼ばれる他の賠償金も合わせれば、後遺症について支払われるお金はより多くなります。
とはいえ、「自分の怪我の場合は上手く認定されるのか」「結局、自分の場合は具体的にいくら支払ってもらえるのか」、そのような疑問を持ってしまうことは当然でしょう。
後遺障害の慰謝料がもらえるのは、あくまで後遺障害の認定を受けることが前提です。
認定を受けたうえで支払われる賠償金の相場を上げるには、弁護士への依頼も必要になります。
ここでは、交通事故によるむち打ちで後遺症が残ってしまった場合の慰謝料や認定を受けるポイントなどについて、分かりやすく説明します。
このコラムの目次
1.むち打ちの後遺障害慰謝料
(1) 後遺障害慰謝料とは?
「後遺障害慰謝料」とは、交通事故の後遺症により被害者の方が受ける精神的な苦痛についての損害賠償金です。
後遺症が残らなくても慰謝料を受け取ることはできますが、それはあくまで怪我についての賠償金です。後遺症が残った場合には、怪我とは別に、慰謝料などを損害賠償請求できるのです。
一方、後遺症が残ったら必ず請求できるわけではありません。「後遺障害等級認定手続」で「後遺障害」にあたる後遺症だと認定されて初めて、後遺障害慰謝料など後遺症に関係する損害賠償請求が,通院慰謝料とは別に請求可能になります。
怪我がこれ以上回復しなくなった「症状固定」の時、つまり後遺症が残ってしまった時以降については、リハビリを続けていても治療費などを請求できないことが原則です。
しかし、むち打ちの後遺症の程度や証拠次第では、後遺障害の認定を受け、後遺障害慰謝料などの後遺症に関する損害賠償請求をすることができるようになります。
(2) 損害賠償相場の基準
怪我の賠償金もそうですが、交通事故の損害賠償金には迅速公平な支払いを実現するために、これまでの裁判所の判断をもとに相場が作られています。
そのため、慰謝料は、比較的、相場による金額の見通しが分かりやすくなっています。
精神的な損害、心のキズは、いくら賠償すれば補えるのかとは本来言えません。よほど特殊な事情がある場合を除いて、被害者の方それぞれの具体的な事情の影響をさほど受けずに金額が決まるのです。
賠償請求の相場には、①自賠責保険の基準、②それぞれの任意保険会社の内部基準、③弁護士に依頼した場合の基準、があります。
③は「弁護士基準」「裁判基準」とも呼ばれています。3つの基準の中でも圧倒的に高額です。
たとえば、後遺障害の14級(「14級」についての説明は後述)に認定された場合、自賠責保険から支払われる後遺障害慰謝料は32万円ですが、弁護士基準で支払われる可能性がある後遺障害慰謝料の相場は最大110万円です。
14級 | |
---|---|
自賠責基準 | 32万円 |
弁護士基準 | 110万円 |
金額にして80万円近く、4倍近くになるのです。
弁護士基準で後遺障害慰謝料などの損害賠償請求をするには、弁護士に依頼することが必要です。
裁判の前の示談交渉の段階でも、弁護士に依頼すれば、任意保険会社も③の基準に近い金額を提示することが多くなります。
(3) 後遺障害の等級
後遺障害は、仕事や家事などにどれだけ影響が出るかを示す「労働能力」への悪影響の大小に応じて、14段階の「等級」に区分けされています。
むち打ちの後遺症が後遺障害に認定された場合、等級は、基本的に一番低い14級か、その二つ上の12級のみです。
後遺障害慰謝料は、等級に対応して金額の相場が決まっています。
弁護士基準であれば、最も低い14級の後遺障害慰謝料は110万円ですが、2ランク上の12級であれば290万円です。
もっとも、認定ポイントでも触れますが、12級に認定されるにはかなり厳しい条件をクリアする必要があります。
(4) 後遺障害慰謝料の相場まとめ
これまで説明した損害賠償相場の基準や等級に応じた相場をまとめた、むち打ちの後遺障害慰謝料に関する相場を表にまとめました。
12級 | 14級 | |
---|---|---|
自賠責基準 | 93万円 | 32万円 |
弁護士基準 | 290万円 | 110万円 |
後遺障害の認定を受けること・より高い等級に認定されること・弁護士に依頼することが、どれだけ請求可能な損害賠償金を増やせるか、ご理解いただけると思います。
さらに、後遺障害等級認定を受ければ、慰謝料だけでなく、将来の収入への悪影響への賠償金、「逸失利益」も請求できるようになります。
被害者の方の収入次第ではありますが、数十万から数百万の逸失利益が手に入ることもあります(なお、主婦の方も家事に悪影響が出たとして逸失利益を請求できます)。
このように、後遺障害等級認定を受けることで慰謝料などを請求出来れば、賠償金を一気に上積みできる可能性が生じるのです。
2.後遺障害等級の認定ポイント
ここまで説明してきた何十万円〜何百万円もの慰謝料や逸失利益は、後遺症が残れば必ず支払われるわけではありません。
繰り返しますが、あくまで、後遺障害と認定されなければ、後遺症が残っていても後遺障害慰謝料や逸失利益は請求できないことが大原則なのです。
認定条件は主に以下の三つです。
- 後遺症が残っている
- 後遺症の原因となる怪我が交通事故によって生じたものである
- 後遺症により、労働能力が後遺障害の等級に定められているほど低下している
つまり、「交通事故のせいで後遺症が残り、後遺症のせいで私生活に無視できない悪影響が生じている」かどうかがポイントとなります。
ところが、むち打ちはなかなか後遺障害の認定を受けられません。症状も原因もあいまいなため、上記三つの条件を証明するための証拠が集まりにくいためです。
[参考記事]
交通事故のむち打ち症|痛んでも頚椎捻挫の後遺障害認定は難しい?
しかし、全く認定されないとまでは言えません。さらに、証拠の内容が整っていれば14級から12級へのランクアップの可能性もないわけではないのです。
簡単に認定のポイントを説明しましょう。
(1) 交通事故の衝撃が大きかったこと
神経に損傷が生じるような大きな衝撃が、首などにかかったかどうかがポイントです。
(2) 事故直後に診断を受けていたこと
事故直後2~3日以内、最大でも1週間以内に「交通事故が原因でむち打ちになった」と診断を受けておかないと、症状の原因が交通事故であると認めてもらえないおそれがあります
むち打ちを専門としている診療科は整形外科です。整形外科を受診して診断書を作成してもらいましょう
事故から数日経過して初めて症状を自覚することもありますので、自覚症状が生じたらすぐに整形外科に駆け込んでください。
(3) 6か月以上にわたって週に数回通院していること
むち打ちの症状は被害者の方しかわからない自覚症状ですから、症状の重さについて客観的な目安が必要です。
通院の期間や頻度は、「症状がひどくて辛ければ、面倒でも長い間、頻繁に通院するだろう」ということで、症状の重さを推測する代表的な目安となっています。
(4) 症状が適切であること
むち打ちに関わらず、交通事故による後遺症の特徴として、以下のような特徴が挙げられます。
- 一貫性:症状の内容や症状のあるところが一貫して同じであること
- 継続性:症状がほぼ常にあること
- 症状の推移:症状は事故直後が一番ひどく、その後緩やかに回復していること
自覚症状自体がポイントを満たしていることはもちろん必要です。そのうえで、自覚症状を医師に正確に伝え、カルテや診断書に記入してもらわなければいけません。
むち打ちの症状には、天候や体調などによる波があります。その波の伝え方を間違えないよう、初診から症状固定のときまで、長い目で見た症状の経過を、些細なことまで、どこにどのような症状があるのか、丁寧に説明してください。
(5) 検査で異常が見つかっていること
むち打ちの原因となる神経の損傷は、現代医学の検査でも直接確認することはできません。
それでも、画像検査で骨やその間のクッションである「椎間板」の損傷が見つかり、かつ、その損傷が交通事故によるものだとわかれば、その付近の神経が損傷しているだろうと言えることがあります。
神経がつながっている部分の体に刺激を与えて異常な反応がないか確認する「神経学的検査」も、検査の種類によって信用してもらえる度合いは異なりますが、認定条件の証拠になることがあります。
特に、医学的専門的な検査により、客観的に異常を証明できる「他覚的所見」と呼ばれる証拠はとても大切です。
他覚的所見の代表例が画像検査、特にMRI検査になります。レントゲンやCT検査と異なり、椎間板など骨以外の神経周辺の組織の異常を確認できるからです。
大掛かりな検査で、機器のある病院も限られていますが、MRI検査で異常が見つかれば、少なくとも14級の認定の可能性が高くなります。
さらに、その異常が自覚症状や神経学的検査結果と矛盾なく噛み合っていて、かつ交通事故による外傷性の原因によって生じた異常だと言えるときなど、客観的に外傷性による異常であることを証明できると言えそうな場合には、12級の認定を受けられるかもしれません。
(6) 後遺障害診断書をよく確認する
「後遺障害診断書」は、後遺障害等級認定で最重要にして不可欠の必要書類です。
被害者の方が直接医師に依頼し、また、受け取ることになりますから、そのときに後遺障害診断書の内容をよく確認することが大切です。
記載ミスはないか、認定に不利なニュアンスの記載がないかを確認し、必要に応じて医師に質問、あるいは修正の依頼をしましょう。
後遺障害等級認定手続に関する法律上の専門知識を事前に弁護士に助言してもらっていれば、後遺障害診断書の内容をよりよくできるはずです。
3.まとめ
むち打ちの後遺症における後遺障害等級認定は、かなりハードルが高いものです。
むち打ちになってしまい後遺症が残ってしまったら、後遺障害等級認定を受け、弁護士に依頼して損害賠償請求をしましょう。
なお、できれば認定手続を申請する前に、弁護士に相談することをお勧めします。弁護士への依頼は、認定後の賠償金を増やすだけでなく、認定自体の可能性を上げるためにも大切です。
特に、重要書類である後遺障害診断書を医師に作成してもらう前に、弁護士に相談して、診断書をどのように作成してもらえばよいのか助言を受けるなど、認定前からの準備をしておきましょう。
泉総合法律事務所は、これまで交通事故でむち打ちになってしまった方を多数お助けしてまいりました。皆様のご相談をお待ちしております。
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