交通事故のむち打ち症|痛んでも頚椎捻挫の後遺障害認定は難しい?
交通事故被害で一番といっても過言ではないほど多い症例は何かご存知でしょうか?
それは、「頚椎捻挫」=「むち打ち症」です。むち打ち症は正式な名称ではなく、症状により呼称が分かれており、そのうちの一つが頚椎捻挫です。
頚椎捻挫は、衝突事故により首に衝撃がかかり、首に慢性的な痛みが生じる怪我です。首の痛みだけでなく、吐き気やめまいなど付随的な症状も発生することがあり、重いケースでは手足のしびれや麻痺が残ることもあります。
この交通事故でよくある頚椎捻挫ですが、怪我のように患部を見て明らかにわかるものではなく、主観的な痛みを伴うものであるため、医師や加害者側からみて理解されにくいこともあります。
この場合、被害者は痛みなどの症状に苦しむ一方、後遺障害等級を受けられない等の問題が発生します。
そこでここでは頚椎捻挫の治療期間や慰謝料、後遺障害等級認定について詳しくご説明します。
このコラムの目次
1.頚椎捻挫の基本事項。治療期間や慰謝料について
まずは交通事故で頚椎捻挫の症状が出た場合の基本的な事柄をご説明します。治療期間、慰謝料について理解していきましょう。
(1) 頚椎捻挫の治療期間は1ヶ月〜6ヶ月程度
「痛みが何週間も続いています。頚椎捻挫っていつ治るものなんでしょうか?」
頚椎捻挫の場合、事故から1週間前後で痛みや症状が大きく改善します。
しかし、その後なかなか寛解とまでにはいかず、苦しまれる被害者も多いように感じています。
頚椎捻挫の治療期間は、事故の大きさや症状にもよるため、必ずこの期間で治るということはできません。
しかし、多くの方は1ヶ月〜6ヶ月程度で回復します。軽い痛みなどの症状であった場合は、1週間程度で大きく回復し、その後2~3週間程度で治療が終了するのが一般的です。
しかし、頚椎捻挫の程度が重かった場合には、さらに1ヶ月、2ヶ月と治療期間が延びていきます。
完全に回復しなかった場合でも、半年程度で「症状固定」=「これ以上治療を続けても改善しない状態」と告げられることが多いでしょう。
事故後3週間ほどは症状が安定しないため、週3回程度の通院を医師から勧められる方が多いでしょう。
このように頚椎捻挫の治療期間の目安は、軽症で1ヶ月、重症の場合は半年程度となります。
(2) 頚椎捻挫の慰謝料算出法(むち打ち3ヶ月の通院の事例)
「むち打ち症の場合、交通事故の慰謝料はどのくらいなのですか?」多くの方が、この質問をします。
怪我からくる痛みなどで第三者からは計り知れない苦痛があることから、慰謝料額を気にするのは当然のことといえるでしょう。
被害者にとっては、治療費だけでなく精神的・肉体的苦痛に対する賠償金を求める権利があります。
この質問に対しては、「治療期間や通院日数で変わってくる」というのが答えです。
定められた算出方法がありますので、気になる方は一度ご自身で計算してみて下さい。
まず、入院や通院をしなければならなくなったことに対する慰謝料は、自賠責の場合1日4,200円と定まっています。また、算出方式は、①治療期間×4,200円、②通院日数×4,200円×2で算出した数字の低い額が慰謝料額です。
例:自賠責基準のケース 3ヶ月の通院
①4,200円×60日=252,000円
②4,200円×24日×2=201,600円
※最初の1ヶ月は週3回の通院、2ヶ月目は週2回、3ヶ月目は週1回で計算
①>②なので、201,600円が慰謝料額となる。
入通院慰謝料の算出基準は、自賠責保険だけではありません。任意保険基準や弁護士基準もあり、弁護士基準の場合は、自賠責保険の基準よりもベースアップされているため、数十万単位で慰謝料額がアップすることもあります。
上記例なら、73万円となるため、52万8,400円の増額です。
任意保険会社の基準は、各保険会社に寄って異なり、公開されていませんが、自賠責基準と弁護士基準の間くらいの額だと一般的に言われています。
このように、算出方法さえわかれば基本となる慰謝料額は簡単にわかります。ぜひ皆さんも試してみてください。
2.頚椎捻挫で後遺障害認定は受けられるか
次に頚椎捻挫が完治しない場合の後遺障害認定等級についてご説明いたします。
等級ごとの慰謝料についても見ていきましょう。
(1) 後遺障害等級の基本。いつ申請する?
「加害者側から治療費の打ち切りを打診されました。痛みがまだあるのにどうして…?」
事故後に一括対応とし、任意保険会社が治療費を支払っている場合、治療が一定程度進むと治療費を打ち切ろうとします。
これは、治療費が増えていくからです。加害者側の任意保険会社としては、少しでも治療費を抑えたいと考えるため、頚椎捻挫の場合は半年程度で治療費打ち切りの打診をしてくることが多くなっています。
しかし、痛みや症状が続く場合は、治療をストップしてはいけません。
医師の診断を受け、これ以上治療を続けても完治しないとの判断が出た場合に、後遺障害等級認定を受けるようにしましょう。
後遺障害認定等級とは、交通事故で後遺症が残った場合に、後遺障害認定等級の等級を受けることで後遺障害慰謝料の請求を可能とするものです。
医師から「症状固定」の診断が出たときが、後遺障害認定等級申請を行う時期となります。
このように、なかなか症状が治らないという場合は、後遺障害認定等級の申請を考えるべきときです。
事故から半年を目安に、主治医の診断のもと検討してみてください。
(2) むち打ち症の後遺障害慰謝料は、32万円〜93万円程度
「むち打ち症の後遺障害慰謝料は何級なら獲得できる?」「慰謝料額はどれくらい?」
むち打ち症の場合、後遺障害等級認定を申請するなら、12等級か14等級を検討することになります。
もっとも、ほとんどのケースでは、14等級獲得となります。
まれに9等級を得ることもありますが、この場合は他の症状との併合が認められた場合です。
そのため、むち打ち症のみが後遺障害の場合は、12等級か14等級の獲得を目指すことになります。
ちなみに、後遺障害等級は1等級から14等級まであり数字が少なくなるほど重い後遺障害として判断されています。
(3) 14等級と12等級の違い
14等級では「局部に神経症状を残すもの」の場合に、等級を獲得できるようになっています。12級では「局部に頑固な神経症状を残すもの」です。
両者には「頑固な」以外に違いがなく、具体的にどのようなケースがそれぞれの等級にあたるのかわかりません。
基本的には、事故時の状態と治療経過から連続性と一貫性がある症状の場合は14等級。症状等が神経学的検査の精密検査や検査画像から医学的に証明できる場合は12等級です。
14等級の場合は、連続性と一貫性が大切であり、頚椎捻挫からくる症状であると説明できる程度でなければいけません。
慰謝料はどのくらいか
後遺障害認定等級の場合は、自賠責基準では一律にいくらと決まっています。14等級の場合32万円、12等級の場合93万円です。
弁護士基準になると、増額され14等級で110万円、12等級で290万円です。
等級がかわるだけで60~260万程度も変わるのは驚きです。
このように、むち打ち症の後遺障害認定等級は、等級が変わるだけで大きく慰謝料額が変わります。被害者はこの点を理解し、適切な等級を受けることが大切です。
3.頚椎捻挫の後遺障害認定等級。等級獲得のためのポイントは?
頚椎捻挫で後遺障害等級認定を申請する場合は、いくつかのポイントをおさえておくべきです。しっかりポイントをおさえないと、後遺障害が認定されず、等級獲得が難しくなってしまいます。
頚椎捻挫は、慎重に認定手続きの準備を進めることが重要です。そのために以下のポイントを押さえておきましょう。
①整骨院ではなく、病院に通うこと
首の痛みの場合、多くの方が病院ではなく整骨院に治療をお願いします。しかし、事故後は必ず医師のいる整形外科や総合病院にかかるようにしてください。
なぜなら、整骨院には診断書のかける医師がいないためです。
診断書がないと、事故による怪我や症状であることを証明できず、後遺障害認定等級の獲得も厳しくなります。軽い痛みであったとしても、事故後すぐに必ず病院へ行くようにしてください。
②途中で諦めずに治療すること
回復途中で治療をやめてしまう被害者の方も多いのが実情です。
理由としては、病院に通うのが面倒、忙しくて病院に通えない、病院が遠すぎるなど様々です。
しかし、途中で治療をやめてしまうと、痛みが消えないまま日常を過ごすことになるだけでなく、慰謝料額も少なくなってしまいます。
後遺障害等級では、通院実績が少ない、症状の一貫性・連続性を判断できない、重篤性がないなどを理由に等級獲得ができなくなってしまう可能性もあるのです。
事故後の初月は週3回程度、改善しても痛みがある間は週1程度は必ず通院するようにしましょう。
③精密検査を受けること
後遺障害認定等級を受けるためには、症状が医学的に証明または推定できる程度であることが必要です。
そのためにも、事故直後にCTやMRIを受けるのはもちろんのこと、神経学的検査も受けるようにしましょう。
また症状については、具体的に医師にしっかりと説明を行うことが大切です。一時的な改善が見られるときも、大げさに良くなったということはおすすめしません。
なぜならむち打ち症は一進一退がある症状であるからです。
④医師に後遺障害等級認定申請を任せないこと
後遺障害等級認定申請を受ける場合は、主治医の診断書が必要です。
医学のことはわからないという理由から、医師にすべてお任せしてしまう方も多いでしょう。
しかし、これは認定を受けるという観点からは危険です。
頚椎捻挫は後遺障害等級を得難い症状の1つです。そのため保険会社の勧めるまま申請を進めたり、医師の診断内容を確認しないまま進めたりしてしまうと、等級が得られない可能性があります。
医師の診断に納得できない場合は、セカンドオピニオンや弁護士に相談してください。
4.交通事故でむち打ちになったら弁護士へ相談を
後遺障害認定等級を受けるためには、地道に病院に通うこと、必要な精密検査を受けること、ご自身で積極的動くことが大切です。
不安が多い方は、弁護士などの専門家に依頼することで正当な等級獲得の確率を上げることができます。
交通事故によるむち打ちで後遺障害認定等級を受けることを検討されている方は、泉総合法律事務所へご相談下さい。交通事故に詳しい弁護士が親身になってサポート致します。
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