個人再生で滞納している税金・保険料・年金はどうなる?
個人再生は、再生計画が認可されると借金の一部を免除してもらえるメリットの大きな債務整理です。
そのため、多額な借金を抱えたときでも自己破産せずに借金を解決できる場合があります。
多額な借金を抱えている人には、借金の返済だけでなく、年金や健康保険に未払いがある場合や、税金に滞納があることも少なくありません。
個人再生では、これらの税金や保険料の滞納分はどのように取り扱われるのでしょうか?
このコラムの目次
1.個人再生における税金・保険・年金の取扱い
税金や保険料といった公租公課は、個人再生では消費者金融・銀行からの借金とは異なる取扱いを受けます。
結論を先に示すと、個人再生や自己破産をしても、国民の義務である公租公課の負担は軽くなりません。
借金の返済に行き詰まった人の中には、公租公課に未払いがある人も少なくありませんが、未払い額が多額なときには個人再生できない場合もあります。
(1) 一般優先債権とは
国の公租公課の徴収権は、通常の借金(債権)よりも優先的な地位が認められていることから、個人再生では「一般優先債権」となります。
一般優先債権は、「一般の先取特権その他一般の優先権のある債権(のうち共益債権となるものを除く)」が該当します(民事再生法122条1項)。
公租公課の徴収権以外に一般優先債権とされる主な債権は、次の2つです。
- 再生債務者に雇用されている従業員の労働債権(給料)
- 再生債務者が延滞している水道光熱費など(再生手続き開始決定の6ヶ月前までの分)
(2) 個人再生における一般優先債権の取扱い
一般優先債権は、個人再生において次の取扱いを受けます。
- 一般優先債権は、基準債権とはならない
- 一般優先債権は、個人再生に関係なくその都度支払う必要がある
簡単にまとめれば、一般優先債権は、「支払い額が減免されず」、「個人再生前と同様に義務が生じたときに支払う必要がある」ということです。
特に「必要が生じた時に支払わなければならない」という点には注意が必要です。なぜなら、一般優先債権を有する債権者は、債務者が個人再生を申し立てても個別に強制執行を申し立てることができることを意味するからです。
なお、「再生手続き開始後の家賃や水道光熱費」の支払いは、共益債権(民事再生法49条4項)となりますが、「再生計画によらず随時支払う必要がある」という点では一般優先債権と同じです。
2.税金などの滞納と個人再生との関係
税金や保険料に滞納があるときに個人再生を申し立てると、再生計画が不認可となる場合があることに注意が必要です。
再生計画が不認可となれば、借金は個人再生申立て前の状態に戻ってしまいます。
(1) 個人再生で問題となる公租公課
私たちが負担しているさまざまな税の分類をまとめたのが下の表です。
税の種別 | 具体例 | |
---|---|---|
国税 | 直接税 | 所得税・法人税・贈与税・相続税 |
間接税 | 消費税・酒税・たばこ税・揮発油税・石油ガス税・航空機燃料税・石油石炭税・自動車重量税・関税・とん税・印紙税・登録免許税 | |
地方税 | 直接税 | 道府県民税・法人道府県民税・個人事業税・法人事業税・不動産取得税・自動車取得税・自動車税・鉱区税・固定資産税 |
間接税 | 地方消費税・道府県たばこ税・ゴルフ場利用税・軽油引取税 |
実際のケースで延滞が問題となるのは、国税・地方税の直接税です。間接税は、たとえば消費税のように、それぞれの取引ごとに支払うものだからです。
ただし、個人事業主が個人再生するケースでは、多額の消費税を滞納しているケースもありえるでしょう。
また、個人再生を検討するケースでは、税金だけでなく、健康保険や年金保険の滞納がある場合も少なくありません。個人事業主であれば、従業員の社会保険料に未払いがあることもよく見受けられます。
(2) 滞納している税金・保険料は個人再生しても全額支払う必要がある
上でも解説したように、税金や健康保険・年金保険といった公租公課の徴収権は、一般の債権よりも優先的な地位が与えられているため、個人再生では「一般優先債権」となります。
一般優先債権は、個人再生における「基準債権」とはなりません。基準債権とは、個人再生における最低弁済額の基準となる債権のことです(民事再生法231条2項3号)。
つまり、税金や保険料の滞納分は、基準債権とならないため減額の対象にもならず、全額を支払う必要があります。
また、当然ですが、再生手続き中に発生する税の負担も減免されることはありません。
(3) 滞納税金があると再生計画が不認可になることも
税金や保険料の徴収権は「一般優先債権」なので、個人再生が申し立てられたときでも、滞納処分による差押えで強制徴収が可能です。
税金等の滞納したときには、納期限後に督促状が作成されてから10日を経過すると滞納処分による強制徴収が可能となります。
借金の延滞などの場合のように、訴訟や支払督促という手続きを間に挟む必要はありません。
通常は、滞納処分までには督促と催告が相当の期間実施されることが一般的です。
しかし、連絡を無視した場合や、支払えるだけの資力があるのに虚偽申告をしたときには、即座に滞納処分が実施される場合もあります。
ところで、個人再生では、再生計画の認可後に得た収入から、債務の一部を3年(~5年)の分割で返済する必要があります。
この間に、滞納処分が実行される可能性が高いときには、再生計画が不認可となる場合が少なくありません。
滞納処分によって給料が差し押さえられれば、再生計画を遂行することが不可能な場合がほとんどだからです。
また、認可後に滞納処分されたことで再生計画が遂行できないときには、認可取消しとなります。
滞納処分による差押えは、借金の差押えとは異なるルールが適用されます。
借金が原因の給料差押えは、給料の1/4までしか差押えできませんが、滞納処分の場合には、それ以上の金額が差し押さえられる可能性もあります。
滞納処分が実施されたときには、ほとんどのケースで完納まで差押えを解除することができません。
なお、個人事業主が雇用している従業員へ支払う給料に多額の未払いがあるときにも、公租公課の滞納がある場合と同様に、再生計画不認可となる可能性があります。
(4) 税金などの滞納分は、個人再生申立て前に完納するのが基本
公租公課の滞納があるときには、滞納分を完納してから個人再生を申し立てるのが原則的な対応方法です。
弁護士に債務整理を依頼すれば、受任通知の送付により消費者金融や銀行への借金返済が停止されます。
また、個人再生の申立て準備には、数ヶ月の期間が必要となることが一般的なので、この間に滞納している税金や保険料を完納します。
3.支払えない公租公課を解決する方法
滞納した公租公課は、一括で完納できることが理想ですが、借金があるときには難しいことも少なくないでしょう。
その場合には、公租公課の支払いには、猶予の申出や分納協議によって対応します。
この際には、滞納額と支払い方法(分納の方法)について記載した「陳述書」を個人再生申立ての際に提出します。
分納協議がまとまっていて、分納をきちんと履行していれば滞納処分が実施されることはないからです。
(1) 減免・猶予の手続き
住民税や国民健康保険の保険料、国民年金保険料などには支払いの猶予や減免の制度があります。
次のような事情があるときには、あらかじめ手続きをすることで、納付額の減免を受けられる場合があります。
具体的な条件・手続きは、それぞれの地方自治体によって異なります。また、住民税・国民健康保険の減免手続きは、納期限前の申請が原則です。
これに対して、国民年金保険の減免は、25ヶ月前の分までにさかのぼって手続きすることができます。
(2) 分納協議
税金や保険料に滞納があり1回で完納できないときには、徴税庁と分納協議することで対応することが一般的です。
税金・保険料の猶予・減免の制度が利用するには納期限前の申請が必要なことが多く、すでに納期限を過ぎて滞納となった分には適用できないことが少なくありません。
また、年金について猶予・減免が認められるときには、収入不足のために個人再生が利用できない(自己破産すべき)場合も少なくないからです。
税金などの分納期間は、は3~6ヶ月となることが一般的です。最長でも1年までの期間で滞納分を分納する必要があります。
滞納分の分納と再生計画の遂行を同時に行えるだけの収入があるときには、分納協議がまとまった段階で個人再生を申し立てることも可能です。
しかし、収入額が足りないときには、分納が終わるまで個人再生の申立てを待つことになります。
この場合には、消費者金融や銀行などへの受任通知の送付から個人再生の申立てまで半年~1年ほどかかる場合もあります。
受任通知送付から個人再生申立てまで時間がかかるときには、債権者が個別に訴訟提起(強制執行の申立て)をしてくる場合もあるので、注意が必要です。
4.まとめ
税金・健康保険・年金に滞納があるときの債務整理は、慎重な対応が必要です。公租公課の延滞があれば、分納期間に債権者から個別の権利行使(訴訟提起)がされる場合もありえます。
権利行使を回避するための交渉や、権利行使されたときに適切に対応するためには、弁護士によるサポートが必要不可欠です。
泉総合法律事務所にご相談いただければ、個人再生はもとより債務整理の専門家である弁護士が責任もってサポートさせていただきます。相談は何度でも無料ですので、債務整理でお悩みの方はぜひ一度ご連絡ください。
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