自己破産の制限|破産すると引っ越しできなくなる?
世間では自己破産は、実際の姿よりも恐れられてしまっています。
確かに、自己破産にはデメリットやリスクがあり、油断をせずに専門家の助言を受けるべき手続です。しかし、あまりに恐れすぎて、自己破産という選択肢自体から遠ざかるべきではないのです。
たとえば、
- 自己破産をすると引っ越しが禁止されてしまう
- 裁判所に監視される
- 郵便物や銀行口座も自由にできなくなる
このような不安を口にされる方が、しばしばいらっしゃいます。
ここでは、「自己破産による居住・移動(引っ越し)制限」を中心に、自己破産による様々な制限の本当の姿について分かりやすく説明します。
借金問題に困っているのに、自己破産を怖がってしまっている皆様の不安を取り除いていきますので、ぜひお読みください。
このコラムの目次
1.自己破産による居住・移動制限がされる場合
自己破産をすると必ず居住・移動制限がされるわけではありません。
二つある自己破産手続の種類のうち、手続の監督役である「破産管財人」が選任される「管財事件」でのみ、居住・移動制限がされます。
破産管財人が選任されない「同時廃止」では、居住・移動制限がされません。
(1) どんなときに管財事件になるのか
裁判所は、債務者の資産を債権者に配当するときや、自己破産で借金をなくす「免責」を認めるには不適切な事情である「免責不許可事由」があるときに、その処理や調査をさせるために破産管財人を選任します。
ですから、管財事件になる場合とは、①債務者が債権者に配当できる資産を持っているとき、②債務者に関して免責不許可事由があるとき、の二つの場合です。
具体的な振り分けの基準は、各地の裁判所で多少異なっています。
2019年8月現在の東京地方裁判所の運用をおおざっぱに言えば、以下の通りです。
- 33万円以上の現金または20万円以上の価値を持つ重要な財産またはその他の財産があるとき
- 借金が多く(目安としては500万円程度)、免責不許可事由が疑われる場合
- ギャンブルや浪費など免責不許可事由があることが明らかなとき
なお、免責不許可事由があったとしても、よほど悪質で反省が見られない限り、裁判所がほかの事情も考慮して免責を認める「裁量免責」がされています。
(2) 管財事件で居住・移動制限がされる理由
裁判所や破産管財人が、債務者といつでもすぐに連絡が取れるようにするため、また、資産隠しや逃亡を防ぐために、管財事件では居住・移動制限がされます。
管財事件では、資産の配当や免責不許可事由の調査のため、債務者から様々な事情を聴取する必要があります。
ですから、債務者は、裁判所や破産管財人に対して説明義務を負っています。
説明をしないこと、嘘をつくことなどは、裁量免責が許されないほどの免責不許可事由になりますし、最悪、刑罰が科せられます。
債務者が、裁判所や破産管財人に無断で引っ越しや旅行をすると、連絡が取れなくなってしまいます。債務者の説明義務が果たされなくなり、免責不許可事由に関する調査や、配当すべき資産の調査など、自己破産手続自体に支障が出ることにつながります。
あまり考えられないことではありますが、自己破産が認められそうになくなった債務者が資産を隠し、また、逃亡することもないわけではありません。無断で遠隔地に移動されると、財産隠しや逃亡の危険が大きくなります。
そこで、管財事件では、債務者は事前に裁判所の許可を得なければ、転居や長期間の出張が出来ないことになっているのです。
(3) 居住・移動制限がされる期間
居住・移動制限は、債務者が自己破産手続に関する説明義務を果たせるようにするため、また、配当の原資となる債務者の資産を債務者が持ち逃げしないようにするための措置です。
ですから、自己破産手続の期間中だけ、居住・移動制限がされます。
2.居住・移動制限の内容
上記のような居住・移動制限の対象となった場合、制限の期間中は、裁判所に申立てをして許可を得なければ「遠いところに長くいる」ことができなくなります。
逆に言えば、裁判所の許可さえあれば、引っ越しや旅行はできます。極端に不審な場合を除いて、裁判所は住居からの移動について許可をしてくれます。
もちろん、一時的な外出まで制限されることはありません。
事前に代理人弁護士を通じて、
- 引っ越しや旅行の理由が適切であること
- 転居先・移動先
- 滞在期間
などを明確に伝えれば、さほど問題にはならないでしょう。
(1) 引っ越し
転勤や単身赴任、転職など、理由が明らかなら大丈夫でしょう。
引っ越しのあとには、転居先の住民票を手に入れてください。
住民票を添付した住所変更の届出の書面を裁判所へ提出し、新しい住所・連絡先を明らかにする必要があるからです。
(2) 旅行や出張
許可が必要になる目安は、基本的には2泊以上の宿泊をともなう場合です。
仕事の都合上、出張が多く、いちいち許可を求めるわけにはいかないという場合には、出張は全面的に認めてくれることもあります。
なお、正式な許可手続が不要とされた場合でも、携帯電話などでいつでも連絡が取れるようにしてください。
一方、さすがに、単なる娯楽のための旅行はまず許可されることはありません。自己破産するほどお金に困っているのだから、そこは節約してくださいということです。
もっとも、具体的な事情次第では旅行、しかも海外旅行も認められることがあります。たとえば、海外で行われる家族の結婚式のため、旅費を家族の負担で海外渡航する場合など、社会的に適切な目的で、自分のお金を使わないといった事情があるときです。
なお、パスポートの発行に影響が出ることはありません。ビザの発行に制限がかかることがありますが、不要なことが多いため支障はさほど生じないでしょう。
3.その他の自己破産に伴う制限
自己破産に伴う制限には、居住・移動制限以外にもいくつか問題となるものがあります。
さほど不安になる必要がないものがほとんどですが、なかには制限対象となってしまった場合、弁護士の専門知識を借りて適切な対策をとる必要があるものもあります。
(1) 郵便物の転送
管財事件でのみ生じる制限です。
手続開始後、債務者あての郵便物が破産管財人に転送されるようになります。破産管財人は債務者が郵便物を確認する前に、開封して内容を確認できるのです。
これは、申告漏れの債権者からの督促の書類がきていないか・申告漏れの保険等の連絡がきていないかを確認することで、債務者の債務・財産の調査を行うためです。
債権者や解約返戻金のある保険などの財産は事前に全て確認して申告しましょう。わざと隠していたとされてしまうと、免責されない、犯罪となるおそれがあります。
(2) 破産管財人の自宅訪問
管財事件では、破産管財人が債務者の自宅を訪問することがあります。隠している財産またはその資料がないかを探すためです。
近所の方にバレることにつながらないか、不安にお思いでしょうが、基本的にめったに自宅訪問されることはありません。あるとしたら、財産隠しを強く疑われている場合でしょう。
財産について何か処分をする際は、必ず弁護士に事前に確認して、よけいな疑いを破産管財人に持たれないようにしましょう。
(3) 資格制限
管財事件でも同時廃止でも、手続中は、警備員や保険・金融関連の資格など、他人の財産を取り扱う資格や職業で働くことができなくなります。
ほとんどの仕事は対象外で働き続けることはできますし、勤務先から借金をしているなど特殊事情がない限り、バレることもまずありません(バレてもそれを原因とした解雇は違法です)。
しかし、もし、資格制限の対象となってしまった場合には、事前に勤務先に休職や転属などを依頼する必要があります。
(4) 口座照会
破産管財人は、銀行口座の申告漏れを疑ったとき、銀行に口座照会をして、隠し口座がないか確認できます。
どのみち、申立てのときにすべての口座の通帳の写しを提出する必要がありますし、手続中に追加で提出を要求されることも珍しくありません。
自己破産により口座が使えなくなるケースは、管財事件で配当のため破産管財人の管理下に置かれた場合、口座のある銀行から借金をしていたため、銀行が口座を凍結した場合などです。
必ず口座が使えなくなるわけではありません。また、手続中も新しく口座の開設は可能です。
しかし、裁判所も破産管財人も、銀行口座の有無や内容については徹底的に追及してくることがありますから、事前に弁護士に連絡をしてください。
4.まとめ
自己破産に伴い生じる生活への制約のうち、居住・移動制限や郵便物の転送は、管財事件でのみ生じます。できれば、同時廃止で自己破産をしたいところです。
しかし、債務者本人による破産申し立ての場合、たとえ財産がないとしても管財事件になってしまうのが通常です。財産を隠していないか、免責不許可事由がないかなどを破産管財人に調査させるべきだと裁判所が考えてしまうからです。
弁護士に手続の代理を依頼すると、財産状況や借入の経緯について弁護士が調査して裁判所に説明しますから、裁判所は調査しなくてもよいと判断し、同時廃止にする可能性が生じます。
早くから弁護士に相談をしておけば、免責不許可事由になりかねない不適切な行為をしないようにあらかじめ助言を受けることもできます。
少しでも制限をなくして自己破産手続きを行うために、一度弁護士までご相談ください。
泉総合法律事務所は、これまで多数の借金問題を自己破産手続で解決してきた豊富な実績があります。
自己破産での債務整理をご検討していらっしゃる皆様のご負担を少しでも減らして、皆様のお悩みを解決できるよう尽力いたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。
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