「未払い給料を払ってください!」法人破産後の従業員の対応
社長から「給料の支払いをしばらく待ってほしい」と頼まれ、泣く泣く承諾したら、ある日突然、会社が倒産してしまった。
倒産が迫っている会社では、資金繰りが厳しくなり、給料の遅配も起こりがちです。そして、給料未払いのまま会社が倒産してしまう、というのが最悪のパターンです。
会社が倒産した場合、未払いの給料や退職金はどうなるのでしょうか。
このコラムの目次
1.会社の倒産とは?
実は「倒産」という法律用語はありません。
一般的に倒産といえば、破産や民事再生、会社更生などの法的手続きが知られていますが、いわゆる夜逃げなどのように法的手続きを取らずに事業を停止するケースも含めて「倒産」と表現します。
また、会社が破産手続きを申し立てたのか、民事再生手続きを申し立てたのか、あるいは夜逃げなどで事業を停止したのかによって、未払い給料や退職金の扱いも異なります。
ここでは会社が「破産手続き」を申し立てた場合を前提に解説します。
(1) 会社が倒産しても給料の請求権はなくならない
会社と従業員は「雇用契約」という契約で結びついています。従業員は会社に対して労働を提供し、会社は労働に対する賃金を支払う、という内容の契約です。
したがって、働いた分が未払いであれば、雇用契約に基づいて、当然に未払いの給料や退職金を請求する権利があります。
会社に対して給料や退職金を請求する権利のことを「労働債権」といいますが、たとえ会社が倒産しても、(時効にかからない限り)労働債権は消滅しないのです。
(2) 倒産した会社にどうやって給料を支払ってもらうのか
会社が倒産しても労働債権は消滅しません。しかし、倒産した会社にどうやって給料や退職金を支払ってもらうのでしょうか。
その仕組みを理解するためには、まず破産手続きを理解する必要があります。
破産手続きとは、「破産者の財産を金銭に換えて、債権者に平等に配当する」という手続きです。会社が破産した場合は、会社が「破産者」、従業金が「債権者」にあたります。
債権者というと、金融機関や取引先企業などが思い浮かぶかもしれませんが、従業員も労働債権を持つ債権者です。
会社の破産手続きが始まったら、未払いの給料・退職金があることを届け出て、「配当」という形で未払いの給料・退職金を受け取ることができるのです。
(3) 労働債権の優先度
たしかに破産手続きによって配当を受ける制度はありますが、会社に残った財産が少なければ、十分な配当を受けることができません。
そこで、破産手続きでは、債権の種類に応じて優先度がランク付けされ、優先度の高い債権から順に配当を受けることができる仕組みになっています。
このランク付けについて、ランク上位から順番に解説しましょう。
①抵当権等の被担保債権
たとえば、銀行が会社に事業資金を貸し付ける場合、会社の保有不動産に「抵当権」を設定することがあります。
会社が破産した場合でも、銀行は抵当権を設定した不動産を売却して、その売却代金から優先的に貸付金を回収することができます。
破産手続きは「債権者に対して財産を平等に分配する」と説明しましたが、この抵当権だけは例外で、抵当権を設定した債権者だけが優先権をもっています。
②財団債権
抵当権は特別な優先権をもっているので、実質的にはこの「財団債権」が最優先だと考えてもよいでしょう。未払いの給料・退職金などの「労働債権」は、ここに含まれます。
ただし、残念な点がいくつかあります。
一つ目は、「未払い給料や退職金の全額が対象になるわけではない」という点です。
財団債権として扱われるのは、未払いの給料のうち「破産手続開始前3ヶ月間に生じた額」までです。少し分かりにくいのですが、単純に「未払い給料3ヶ月分」という意味ではないので注意が必要です。
たとえば、会社が4月1日に破産手続き開始決定を受けたとすると、その「前3ヶ月」ですから1月1日から3月31日の間に支払いを受けるべき賃金が対象範囲となります。
もし、1月分給料が支払われていた場合には、財団債権として優先扱いを受けるのは、「2月分」、「3月分」の2ヶ月分となります。
なお、「破産手続開始前3ヶ月間に生じた額」には、残業手当などの各種手当やボーナスも含まれます。
退職金についても、財団債権として扱われるのは「退職前3ヶ月間の給料の総額に相当する額」という制限があります。
たとえば、会社の退職金規程に基づいて計算すると退職金が1000万円であっても、月給30万円の従業員の場合に、財団債権として扱われるのは30万円×3ヶ月=「90万円」ということになります。
二つ目は、財団債権は「未払い給料・退職金だけではない」という点です。
倒産する会社では、各種税金を長期にわたって滞納しているケースが多くみられますが、滞納している税金のうち「破産手続き開始前1年内に納期限が到来している額」は財団債権として扱われます。
③優先的破産債権
上記のとおり、未払いの給料のうち「破産開始前3ヶ月間に生じた額」、未払いの退職金のうち「退職前3ヶ月間の給料の総額に相当する額」が財団債権として扱われ、それを超える部分は一つ順位が落ちて、この優先的破産債権として扱われます。
また、同様に、滞納している税金についても、財団債権となる部分以外は一つ順位が落ちて優先的破産債権となります。
④一般債権
無担保の貸付金や取引先の売掛金など、上記のどれにもあたらない債権です。
実際の破産事件では、一般債権まで配当はまわらないか、配当できたとしても数パーセント程度というのが実情です。
2.未払賃金の立替払制度
従業員に対して給料や退職金を支払うのは会社の責任です。そのため、会社が倒産した場合には、会社の財産を金銭に換えて、優先的に従業員に配当する仕組みになっているのです。
しかし、実際には、資産を食いつぶしながらギリギリまで経営を続けるため、会社が倒産した時点ではほとんど財産が残っておらず、現実には、破産による配当は期待できないケースが多くみられます。
このような場合には、「独立行政法人 労働者健康安全機構」による未払い賃金の立替払い制度が利用できないか検討してみましょう。
ところで、なぜ「立替払い」なのかというと、最終的には労働者健康安全機構が事業主に請求する仕組みになっているからです。
(1) 立替払を受けられる条件
立替え払いを受けるには、以下のとおり一定の条件があります。
ただし、条件をすべて満たしても、立替払される額は未払賃金(ボーナス等は含みません)の額の8割で、退職時の年齢に応じて88~296万円の範囲で上限があります。
また、立替払の請求は、会社が破産手続開始決定を受けた日(事実上の倒産の場合は労働基準監督署長が倒産の認定をした日)の翌日から起算して2年以内です。
この期間を過ぎると立替払を受けることができなくなります。
①勤め先が1年以上事業活動を行っていたこと
ここでいう「勤め先」は、株式会社や有限会社などの法人である必要はなく、個人事業主のもとで働いていた場合も対象となります。
②勤め先が「倒産」したこと
破産、民事再生や会社更生などの法的手続きは当然これにあたります。立替払いを申請するときに、管財人等に倒産の事実を証明してもらう必要があります。
法的手続きをとらずに事業を停止している場合(事実上の倒産といいます)も含むのですが、この場合には、労働基準監督署長に倒産していると認定してもらう必要があります。
③会社が倒産する6か月前の日から2年の間に退職したこと
分かりづらいので具体的に説明しましょう。
たとえば、勤めていた会社が平成28年7月1日に破産手続き開始決定を受けたとします。
この場合、破産手続き開始決定の6ヶ月前である平成28年1月1日が始点、そこから2年後の平成30年12月31日が終点となります。
つまり、平成28年1月1日~平成30年12月31日の間に退職した人が対象になる、ということです。
(2) 申請手続の流れ
おおよそ以下のような手順で立替払いを請求します。
①会社が倒産した事実を証明する書類を入手
会社が破産手続きを申し立てている場合には、破産管財人に依頼すれば破産の証明書を発行してもらうことができます。
また、会社が法的手続きをとっておらず、経営者とは連絡がつかない、という場合でも、労働基準監督署長の認定を受ければ大丈夫です。
②未払賃金額の証明
破産管財人に依頼すれば、証明してもらうことができます。
事実上の倒産の場合には、労働基準監督署長に証明してもらうことができます。
③立替払いの請求
請求先は「独立行政法人労働者健康安全機構」です。
3.法人破産、給料未払いでお困りの方も弁護士へ
会社が破産してしまった場合でも、未払いの給料や退職金は請求することが可能です。
現実的には、破産手続きによって未払い給料の全額を支払ってもらうのは難しいかもしれませんが、立替払いの制度を利用することもできます。諦めないで下さい。
会社の倒産・破産による給料の未払い問題は、破産手続きに精通する泉総合法律事務所の弁護士へご相談下さい。
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