痴漢の再犯は刑が重くなる?痴漢再犯の刑について解説
「(痴漢の)再犯は刑が重くなる」と言いますが、これは本当なのでしょうか?
そもそも、「再犯」とはいったい何を意味するのでしょうか。
ここでは「再犯」の意味を説明しつつ、再犯の刑罰がどのくらい重くなるかを解説していきます。
1.痴漢の刑罰とは
痴漢罪というものは刑法上存在しません。痴漢は、各都道府県の迷惑防止条例と、刑法の強制わいせつ罪で処罰されます。
迷惑防止条例は、各都道府県が個別にこれを定めています。文言は微妙に違えども、禁止している行為は実質的にはほぼ同じです。
千葉県迷惑防止条例は以下のように定めています。
「何人も、女子に対し、公共の場所又は公共の乗物において、女子を著しくしゅう恥させ、又は女子に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。男子に対するこれらの行為も、同様とする。」(第3条2項)
迷惑防止条例違反の罰則は、常習でないものは6月以下の懲役又は100万円以下の罰金、常習者は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります(第13条)。
強制わいせつ罪は刑法176条に規定しており、①13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者②13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者を処罰するとしています。
強制わいせつ罪は、6月以上10年以下の懲役刑に処されます。
以上からわかるよう、強制わいせつ罪の方が重い法定刑となっています。そのため、痴漢行為が迷惑防止条例違反になるか、強制わいせつ罪になるかは非常に重要な問題です。
しかし、痴漢行為がどちらの法規で処罰されるかの判断は具体的事情に左右されます。
迷惑防止条例と強制わいせつ罪についての説明は以下の記事をご覧ください。
[参考記事]
習志野市津田沼の痴漢事件に強い弁護士に相談・依頼すべき5つの理由
2.再犯とは
「再犯」という言葉の意味は、使われる場面によって異なります。
例えば、ニュースや新聞報道で使われる「再犯」、刑法に規定のある「再犯」、犯罪白書などの統計で使われる「再犯」、それぞれ「再犯」という言葉に込められた意味は全く違うのです。
そのため、それぞれの場面で、どのような意味で「再犯」という言葉を用いているか注意することがとても重要です。
(1) 再犯の意味
①ニュースや新聞の報道で使われる「再犯」
単純に「再び罪を犯した」という意味で使われる場合です。一般的にも、同様の意味で用いられていると思われます。
多くの場合、「以前、犯罪を犯したことがある者が、また何らかの犯罪を犯した」という程度の意味で、厳密な内容が意識されているわけではありません。
法廷でも、検察官が「反省していない被告人には再犯の危険性が高い」と論告したり、弁護人が「真摯に罪と向き合っている被告人には、もはや再犯の危険はない」と弁論したりすることがありますが、これも同様の意味で使われています。
②刑法に定められている「再犯」
刑法典で定められている「再犯」は、①の意味とは全く異なり、次のとおり厳密に定義されています。
刑法第56条
懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。
ここでは、前の犯罪で懲役刑の有罪判決が確定し、その執行を終えたか、執行を免除された者で、執行終了または免除の日から5年以内に犯罪行為をおこない、それによって、今回も懲役刑(無期懲役は除く)を宣告することになった場合という全部の条件を満たしたときに、はじめて「再犯」と呼ばれます。
この「再犯」となると、次のように取り扱われます。
第57条
再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の2倍以下とする。
例えば、強制わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の懲役ですので、そのうち刑の上限である長期10年以下が2倍の20年以下となります。つまり6月以上20年以下の範囲内で処罰されることになるのです。
迷惑防止条例違反の法定刑は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金ですので、そのうち刑の上限である長期6月以下が1年以下となります。つまり1年以下の懲役刑又は100万円以下の罰金刑の範囲内で処罰されることになるのです。
ただし、これらは刑の上限が伸びるだけなので、必ず相場の2倍重く処罰されるという意味ではありません。あくまでも最大2倍長く出来るというにとどまります。
③統計上の「再犯」
犯罪白書など、刑事事件に関する統計において、「再犯率」とか「再犯者率」などとして「再犯」の比率が何パーセントかが報告される場合があります。
この場合、何が「再犯」かを明確に定義しないと集計できませんから、①のような漠然とした使い方ではありません。
しかし、必ずしも②の刑法典に規定された再犯と同じではありません。何を調査したいのか、その統計の目的に応じて、調査毎に設定されます。
例えば、平成27年度犯罪白書には、「強制わいせつの再犯者の人員は(中略)平成26年は1191人」という記述があります。
これを読むと、「過去に強制わいせつ罪を犯した者で、再び強制わいせつ罪を繰り返した者が1191人いた」と読み、性犯罪が繰り返される証拠だと思い込んでしまいがちです。
しかし、ここで集計されている「再犯」者とは、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、(平成26年に強制わいせつにより)再び検挙された者をいうとされています。
つまり、前に強制わいせつ罪を犯した者か否かは無関係です(しかも、前の何らかの犯罪も、今回の強制わいせつ罪も、検挙されただけで起訴されていないケースや起訴されても無罪となったケースも含まれています)。
したがって、性犯罪者の犯行が繰り返されるか否かとは無関係な統計です。
このように「再犯」という用語の意味には十分に注意しないと、誤った判断をすることになります。
(2) 再犯によるデメリット
さて、再犯が刑の重さに与える影響ですが、まず、今回の痴漢行為が、先に説明した刑法56条の「再犯」にあたる場合は、前記のとおり懲役刑の上限が2倍に伸びます。
迷惑防止条例違反では上限が1年以下となり、強制わいせつ罪では上限が20年以下となります。
そして、この上限を前提として、具体的な刑の重さが決まります。その際に考慮される諸事情を「量刑事情」と言い、様々な事情が含まれます。
様々な事情とは、例えば犯行が計画的だったか否か、被害者の身体に触っていた時間の長短や電車内で痴漢行為を避けようとする被害者を執拗に追って触ったなどの犯行態様の悪質性、検挙後に被害者に謝罪の意思を伝えたかどうか、被告人の過去の経歴、現在の家庭や職場の環境など、あらゆる事情が考慮の対象です。
先の①の「再犯」も、このあらゆる量刑事情のひとつとして重視されます(ただし、この意味の再犯には様々なケースが含まれ、前の犯罪が有罪判決にまで至っていない場合には、犯罪の事実が証明されていないので考慮されることはほとんどありません)。
裁判上、実際に重く考慮されるのは、前にも有罪判決を受けている場合であり、とりわけ、前回と同種の犯罪を犯した場合です。
被告人なら、前の事件において、それが否認事件でもない限り「二度と犯罪はしません」と法廷で裁判官に誓約しています。再犯では、その誓約が守れなかったことになります。
また、やはり前の事件において、家族などの情状証人が裁判官の前で、「犯罪を繰り返させないように、厳しく指導監督します」と述べているはずです。再犯では、指導監督も無駄だったことになります。
何よりも、前の判決が執行猶予付きであれ、実刑判決であれ、罰金であれ、被告人にとって、何らの効き目もなかったことになります。
ことに同じ痴漢行為を繰り返したならば、被告人が何らの反省もしていないことは明白ですから、前回と同じ扱いはできないことになります。
どんなに「反省しています」、「もうしません」と言っても、信用する裁判官はいません。刑が重くなるのは当然です。
また、前の犯罪に対する刑罰が執行猶予付きの判決であり、執行猶予中に犯罪を行った場合、その執行猶予は取り消されてします。そして、今回犯罪に対する刑罰に再度の執行猶予をつけてもらえる、ごく例外的な場合を除けば、前の刑と、今回の重い刑を合計した長い刑が執行されます。
3.再び痴漢をしてしまったら
以上からわかるよう、再度犯罪を犯してしまうと、非常に大きな不利益を被ることになります。
しかし、その場合でも後の犯罪が有罪判決とならなければ、重い刑が科されることも、前の刑の執行猶予が取り消されることもありません。
裁判で有罪判決を受けることを回避する方法は2つあります。
1つは、裁判において無罪判決を得ることです。しかし、日本の刑事司法は有罪率99%と言われるように、裁判において無罪判決を得るのは至難の業です。本当に痴漢行為が濡れ衣であれば格別、事実であれば、この方針を採用する余地はありません。却って反省していないとして刑が重くなりかねません。
現実的な2つ目の手段として、そもそも起訴処分を回避する(不起訴処分を得る)ことを考えるべきです。
(1) 不起訴処分を得る
再犯となるのを防ぐには、不起訴処分を得るのが一番です。しかし、不起訴処分を得るにはどうすればいいのでしょうか。
起訴か不起訴かを判断するのは、検察官です。検察官は犯行態様や、加害者の反省、被害者の処罰感情、初犯か、示談が成立しているかなど様々な事情を考慮して決定します。
この中でも、特に示談が成立しているかが非常に重要です。
刑事事件における示談とは、典型的には、被疑者が被害者に慰謝料などの示談金を支払い、その代わりに被害者が被疑者を宥恕(ゆうじょ)する合意を指します。
宥恕とは、寛大な気持ちで許すという意味で、示談書に「宥恕する」、「寛大な処分を望む」、「処罰を望まない」などの宥恕文言を記載することで、被害者が許してくれたことを明らかにしてもらうのです。
示談金の支払いは、被害者の被害が金銭的に補てんされたことを意味し、宥恕文言は被害者が処罰を求める気持ちがなくなったことを意味しますから、検察官の判断にあたって、被疑者に有利な事情として重視されるのです。
実際の事例でも、示談が成立していると不起訴、示談が不成立だと起訴される割合が高いといえます。
(2) 示談交渉は弁護士に依頼を
示談の方法知っている一般の方は非常に少ないと思います。そのため、示談交渉は弁護士に依頼すべきです。
そもそも、加害者は被疑者の連絡先を知らないですし、性犯罪においては、被害者はさらなる被害に遭うことを恐れて、加害者に連絡先を教えたがりません。そのため、示談交渉ができないまま時間を無駄にし、起訴されたということになりかねません。
この点、弁護士に示談を依頼すると、弁護士は警察、検察を通じて、「被疑者やその関係者には教えないので弁護士にだけ連絡先を教えて欲しい」と打診します。
被害者は「弁護士なら秘密を守ってくれるだろうから、連絡先を教えて、示談交渉に応じてみよう」といった心境になり、早期に示談を成立させることが可能になります。
また、示談交渉に慣れていないと、示談において作成する示談書の書き方がわからない、あるいは、示談金(示談に際して被害者に払う一定額の金銭)の相場を知らず不相応の示談金で示談を成立させてしまうといったことになりかねません。
弁護士に示談を依頼した場合は、その知識と経験で、適切に示談交渉を進めてくれます。
4.まとめ
痴漢と再犯について説明してきました。
再犯の場合は刑が重くなってしまいます。そのため、初犯の場合に比べて一層示談の重要性が増します。
痴漢を再度行ってしまった方は、なるべく早めに、泉総合法律事務所の弁護士へご相談ください。
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